【光彦】
「若葉さんっ!」
校舎前まで走ってきた俺たちは、そこに立つ若葉と桃花の姿を見つけた。
だが、その様子は明らかにおかしい。
2人とも青ざめた顔で、空を見上げていた。
【里桜】
「会長っ、さっきの声! どうしたんですか!」
【若葉】
「あ、あれ……こっ、恋星ちゃんが!」
震える指で、上を指し示す。
目の前にあるのは、暗闇に溶けるようにそびえ立つ星陽学院校舎。
その上へ、視線を走らせていくと――
【光彦】
「なっ……!」
最初は、何があるのか分からなかった。
だが、やがて目が慣れ、そこに在る不自然な影に気付く。
屋上の縁から延びる、ちょうど人間サイズの影……
それは――
【光彦】
「あ、天迫!?」
――恋星だった。
屋上の塀を越え、落下する一歩手前に立っている。
足を踏み出せば、確実にそこから転落するだろう。
こちらの声にも、反応しない。
微動だにせずただそこに立ちつくしていた。
視線はどこへ向けるともなく、
ぼんやりと宙に泳がせているようだ。
その表情に、生気はない。
本当にあれが恋星なのか、信じられなくなるほどに。
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