2本の剣を両手に握り、敵に向かって構えるように腰を落としたリリィ。
気配を消していたのか、その姿を認めるまで、ここに人がいることに気付かなかった。
俺に気付いていないのか、それとも敢えて意識から外しているのか。
こちらの声に、返事はない。
まるで、修行僧の鍛錬のように。
じっと動かず、風景の一部と化している。
だが、次の一瞬――
【リリィ】
「……ふっ!」
手指の挙動すら見えぬ、瞬速の剣閃。
練達の剣士を思わせる動きで、流れるように2本の剣を振り抜く。
親父のスパルタ特訓の中で、偉い剣道の先生の剣舞を間近で見せられたこともある。
2本の竹刀が描く軌跡に、魅せられたものだ。
しかし今目の前で繰り広げられている光景は、過去に見たものとは大分異質に見える。
師範の、岩をも叩き切るような鋭さではなく、
岩があればそれをすり抜けてしまいそうな、しなやかな動き。
それはまるで、舞踏のようだった。
触れれば命を絶たれるような危うささえ、見る者が忘れてしまうほど、
美しい演舞のように思えた。
【リリィ】
「ふぅ……」
今までに、何千何万回と繰り返してきた修練なのだろう。
一切の淀みなく、剣筋を確かめるように双剣を振り抜いた後、
リリィは深く息を吐き出した。