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「うぅ……えぐっ、えぐっ」
「…………」
「…………」
「むしゃむしゃ、ばくばく」

…………

「えぅ、ひっく……えぅえぅ……」
「…………」
「…………」
「はむはむ、ぐぐっ……もっしもっし」

…………

「ひぅっ……くぅ、えぐっ……」
「…………えっと……」
「…………」
「ばりばりぐしゃぐしゃばきばきごくん」
「さっきから何食ってんだよお前は!!」
「うっ、うぅ……ひぐっ、ひっく……」
「…………その、あー……」

…………

「うぐ、ひっ……すん、すん……ぐしゅ」
「…………」
「ぷはー……あむあむ、もぐん」
「(た、助けてくれ、部長。もう無理)」
「(振るな。私にも分からん)」
「(くそっ、どうすればいいんだよ……)」
「(今日ここに来るまでに何かあったんじゃないのか?)」
「(いや、部室に来るまではそんなに変な様子は……)」
「(ならそっとしておけ。手がかりもなしに動いても無駄だろう)」
「(わ、わかった……)」
「もぐもぐもぐもぐ……」

…………

「弓那」
「うくぅ……な、何、藍?」
「心も体も疲れた時は、やけ食いするといい」
「あ、ありがと……って、何これ。玉葱?」
「園芸部を脅……園芸部が私の思想に共感して作ってくれた、品種改良の青い玉葱。産地ブランドとして商品化する予定」
「そうなんだ……うん、もらうね」
「甘みが強いから、生でもいける」
「藍は優しいのね……かよわい女の子が泣いてても、放っておけばいいとか考えてる、薄情な人たちと違って……」
「っ……(おい部長、対応間違えてるじゃん!!)」
「(知らん。構ってちゃんの相手などに労力を割く気はないからな)」
「(鬼! 悪魔! 俺は真面目に考えてたのに!!)」
「…………(じー)」
「(部長! 部長! めっちゃ見てるよ! 弓那が俺達を試してるよ!!)」
「はぁ……弓那何があった? 部活動の時くらいしゃんとしてくれないと困る」
「べ、別に何もないわよ。花粉症なのよ」
「うわ、めんどくせぇ……」
「そうか、ならいいが」
「うん、大丈夫だから……めそめそ、めそめそ」
「…………」

…………

「(……で、部長。どう思う?)」
「(我々に問題がある、とでも言いたいんだろうな)」
「(やっぱり? 俺たちのせいで泣いてるんだよな)」
「(心当たりは?)」
「(あったら面倒になる前に謝ってるって)」
「(ふむ……私としては、別に放っておいても構わんのだが)」
「(俺は嫌だぞ。絶対解決するまでねちねち嫌がらせされるから)」
「(ならなんとかしろ。私も努力はする)」
「(じゃあ……藍を参考にして、食べ物作戦でいくか)」
「(うむ、やってみろ)」

…………

「ぐすんぐすん、ふえぅ……」
「えーっと、そうだな……ケーキ……」
「ケーキ!?」
「ケーキでも、買ってこようか? 弓那って、甘いもの好きだろ?」
「…………」
「ど、どうかな?」
「……いらないわ」
「(部長! また外した!! 食い物じゃダメだ!)」
「(ペット扱いでもしてるのか? いくら弓那でもケーキにつられるお子様ではあるまい)」
「(分かってたなら止めろよ!!)」
「(とにかく、失敗したなら次を試せ。奴の機嫌が直るまでな)」
「(そう言われても……)えっと、対戦ゲームでもやろうか? ほら、俺も買ったんだよ、新作のゴルフゲーム」
「そういう気分じゃないの。周りの薄情なみんなのせいでね」
「(無理だ部長! 俺には無理だよ!!)」
「(仕方ないな……)弓那、たまには特訓抜きでオーダクルに行かないか? ユプシラ達も喜ぶだろう」
「あたしはパス……雲母達だけで行ったら? とっても心優しい素敵な友達に会いに」
「……弓那、調子が悪いなら帰って休め。部活動は強制ではないからな」
「そうね。どうせみんなは冷血無情だし。おとなしく除け者にされとくわ」
「…………」

…………

「ひく、ひっく、ぐず……うっ、うぅっ」
「(歩武、このウザい生物をなんとかしろ)」
「(無理なんだってば! くそ、誰でもいいからこの状況を変えてくれ!!)」
「(ふん、そんな都合よく救世主が――)」
「やっほ〜、あそびにきたよ〜」
「来た!! 待ってたよ、灯! 直人!!」
「どうしたの、朱島くん……と、机に突っ伏している翠下さん」
「……別に、どうもしないわよ。どうせ心配なんてしてないんでしょ」
「弓那? 何か嫌なことでもあったの?」
「ふんっ……別にないわよ……」
「なぁ2人とも、何とかならないか? さっきからずっとこの調子なんだ」
「ふむふむ。弓那が不機嫌、かぁ」
「うーん……心当たりはあるけどね」
「なんだってっ!?」
「ほう、知っているのか? ならば単刀直入に聞こう。どうして弓那は不機嫌になった?」
「うん、知ってるよ。翠下さんも、人のこと言えないと思うけど」
「ぐすぐす……え?」
「ほらほら、歩武くん。先月に同じような話があったでしょ?」
「先月? ってことは3月……えっと、何かあったっけ……」
「歩武くん、本気で言ってる?」
「え? ちょ、灯? 何か目が怖いぞ!?」
「………なるほど」
「ちょっと部長、助けて! 灯が、灯が!!」
「盲点だったな。本当の方を知っている分、見落としていた」
「はい? 部長、どういうこと?」
「わからないか? 誕生日、だ」
「誕生日って……え?」

…………

「そうそう。翠下さんの誕生日。4月21日だね」
「弓那が生まれた日ではないがな。孤児院育ちの弓那はそれを知らないから、代わりに孤児院に預けられた日を誕生日と公称していたんだ」
「あー、そっか……お祝いもプレゼントも何も用意してなかったぞ」
「やっと気付いてもらえた! っていうか灯、知ってたならどうして!!」
「だって弓那、前に私の誕生日忘れてたよね」
「あぐ、そ、それは……でもほら、あたしはメインヒロインだし!! 特典の資料集にだって、しっかり書いてたのに!!」
「それで拗ねてたのかよ……」
「一応聞かれたら教えるようにしてたのに、当日になって誰も何も言ってこないし! いつも通りだし!!」
「あ、その……ごめん」
「だって、ひどいのよ!! スタッフまで、『ネットの書き込み見るまで誕生日忘れてた』とか言ってるのよ!! メインヒロインの扱いじゃないわよ!!」
「わかったから、わけわからないこと喚くなよ!!」
「仕方ない、ここは真ヒロインのクールビューティーアサシンが一肌脱ぐしかなさそう」
「え? あ、藍?」
「あ、別に肌を晒してお色気分補充とかじゃないから……そんな、下半身すっぱになってまで期待されても、困る……」
「誰もしてねぇよ!! 余計なボケすんな!!」
「さてさて、そこにある論説部備品の冷蔵庫」
「お前が来てからは、お前専用食糧庫になり果てているがな。それがどうかしたのか?」
「実は今日のために、中にサプライズを仕込んである」
「さ、サプライズって……まさか、藍っ!」
「さぁ、開けてみて」

…………

「馬鹿御木津の知恵となると、期待はできないが……む、これは……!」
「わー、すごい豪華なケーキ! みんなで分けても食べきれるかなぁ」
「藍のやつ、いつの間にこんなものを……」
「あ、ありがとう藍!! やっぱり友達は藍だけなのね!!」
「そこで友達を決めるのかよ……いや、確かに俺が悪かったけどさ」
「って、ちょっと待って。このチョコプレートに書いてあるのって……」
「え? 弓那お誕生日おめでとうじゃないの?」
「いや、違うよ。えっとね……」

 

『美しい魔銃士・御木津 生誕1●年記念祭まであと89日おめでとう』

 

「「「なんだそれはーっ!!!!!」」」

 

おしまい



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