「うーん……朱島さんの好みに合う味って、どんな感じなんでしょうか」
時間は昼休み、場所は図書室。
資料とにらめっこをしつつ、溜息を吐く。
こうしている間にも、時間はどんどん過ぎて行ってしまう。
本当は昨日買いに行ったのに、店頭で多すぎるチョコの種類に迷って、結局買えずに帰ってきてしまった。
それからこうして調べ物をしているけれど、どうもこれと決められるものが見つからない。
「チョコの種類自体にもメッセージ性があるみたいですし、下手したら誤解を……でも誤解されたら、そこで色々あったり……うーんうーん……」
「あれ、委員長。調べ物ですか?」
「わわっ!! あ、こんにちは! そうです調べ物です!」
唐突に話しかけられ、思わず声が裏返ってしまった。
振り返れば、副委員長の少女が、心配そうな顔でこちらを覗きこんでいた
その視線に気づき、読んでいた本を隠そうと思ったけれど、既に遅かったようで……
「『洋菓子の時間・バレンタイン特集』……ははぁ、なるほど」
「えと、そのですね……」
「大丈夫ですよ、麻衣乃さん。言いふらしたりはしませんから」
「あっ、ありがとうございます! 内緒ですからね!」
「もちろん、興味は持っちゃいますけど。こんなに悩んでるってことは、やっぱり……」
「あ、あはははは……ノーコメントです」
こんなに資料を引っ張り出して悩むくらいに、真剣なチョコの存在。
要するに……本命。
まるで他人に肌を見られたみたいに、顔がかぁっと熱くなってしまう。
「でも、明日ですよ? 相手がいるのに、まだ用意してないんですか?」
「はい……物を決めたら、放課後に急いで買いに行こうと思ってるんですけど……」
「なら、ちょうどよかったですね」
「え?」
彼女はにっこりと笑いつつ、携帯の操作を始める。
そして彼女が私に見せてきた画面には、友人とのメールのやり取りがあった。
「今日これから、料理クラブの友達と一緒に、調理室に集まるんですよ」
「調理室って、何か作るんですか?」
「もちろん、決まってるじゃないですか。チョコレートのお菓子です」
「あ……つまり、それって……」
「大体はみんなで食べちゃうつもりなんですけど、暗黙の了解で、プレゼント用のお菓子を作ってもいいってことになってます!」
Vサインまで決めて、彼女は宣言した。
その意を悟り、私の心に光が射す。
「それ、私が行ってもいいんですか?」
「もちろんです! 年頃の乙女であれば大歓迎!」
「あ、でも……素人がお菓子なんて作るより、買った方が喜ばれるんじゃ……」
「大丈夫ですよ、気持ちがこもってればそれで十分です。それに、みんなも助けてくれますよ」
手作りのお菓子で、気持ちを伝える。
今まで引っ込み思案だった私にとっては、初めてのチャレンジ。
応えてもらえなくてもいい、受け取ってくれるだけでも充分嬉しい。
「じゃあ……私もがんばってみます。よろしくお願いしますねっ!」 |